木の家 匠の流儀
古くは江戸時代に始まり、伝統の技が代々受け継がれてきた林業。時代ごとに取り巻く環境が大きく変わる林業に、いま求められているその技に迫る。
3年ほどかかって40センチくらいの高さに成長した苗木を、畑から森に移すことから林業の仕事は始まる。最初の10年は雑草に負けないように周囲の草を刈り、その後、曲がったり成長の悪い不良木を徐伐。続く成長過程では、密集した木を間伐という作業で間引いていく。適切な時期に木を間引き、森の中に光を取り込むことが、森全体の動植物が育つための健全な環境をつくり、そして土壌を豊かにして良質な木を育てるのである。
また、幹がビール瓶ほどのサイズになると、枝打ちと言われる余分な枝の除去作業が行われる。これは、節のない美しい材をつくるためであり、幹を傷つけないことと、切り口を小さく綺麗に仕上げることが求められる。時期を逃すと、枝が枯れて虫がついたり成長が遅れたり、或いは穴の開いた節ができたりと、木の質を落とし森の環境も崩しかねない。
じっくりと時間をかけて成長する木を取り巻く環境は、変化も多い。その時々に応じた手入れをするため、林業の匠は常に深い愛情で木と向き合い、全身で森からのメッセージを受け止めているのである。
成長した木を、いよいよ伐採する。慎重に倒す方向を見定め、自分の手の感覚を頼りに木をそこへと導く。斜面の傾き、風向き、枝の重みなどに大きく影響を受けるこの作業。ひとつ間違えば他の木を傷つけ、森の環境に悪影響を及ぼすことにもなりかねない。一瞬たりとも目が離せない作業である。
そして伐採された木は、3~4メートル間隔で切り分けられていく。この時、同じ長さでも枝や中心のズレがあるかないかによってその価値は大きく変わるため、どこで切り分けるかを慎重に見極めることになる。しかも、平坦な場所なら比較的容易なこの作業も、足場の悪い斜面では難易度がはるかに高い。ここにも熟練の技が生きているのである。
その他にも、切り出した木を安全かつ傷つけないように森から運び出すなど、林業には多彩な技が存在する。
東白川村の林業は、健全な森から良質な木を産出するために、長年、環境と社会にやさしい森づくりを強化し、FSC認証を取得するなど取り組んできた。その取り組みは、以前は当たり前のように行われていた環境面や社会面への配慮を再認識するきっかけとなり、今では志高い者たちによって、東白川村の木はわが子のように大切に手入れされている。
東白川村の林業の匠は、いい木をつくることはもちろん、経済的な視点を持ちながらも、環境や社会への貢献のために健全な森を育てる匠でもある。